言うこととやることが大違い、一帯一路は欺瞞である

言うこととやることが大違い、一帯一路は欺瞞である

運命共同体の構築を目指す一方で、ウイグル人を過酷に弾圧

4月25~27日に北京で「第2回 一帯一路国際協力サミットフォーラム」が開催された。第1回を上回る37カ国首脳が参加したほか150カ国から5000人が集い、その期間だけで640億ドル規模のプロジェクトが調印されたという。

 今回のサミットの狙いは、昨年(2018年)どん底に落ちた一帯一路ブランドのイメージ、つまり「債務の罠」だとか「中国版植民地主義」だとか、資金調達の透明性の問題だとかを払拭するのが狙いで、習近平は賢明に国際標準のルールを尊重することや投資規模のスリム化についてアピールしていた。

「一帯一路」国際会議が閉幕、7兆円超の事業で参加国が合意 中国

中国・北京で、大経済圏構想「一帯一路」の国際会議閉幕後に記者会見する習近平国家主席(2019年4月27日撮影)。(c) WANG ZHAO / POOL / AFP〔AFPBB News

 だが、一帯一路に対する最大のブラックイメージであるウイグル弾圧問題についてはほとんど言及されていない。

 一帯一路の起点である新疆地域の治安を維持するために、平穏に暮らしていたウイグル人まで“再教育”施設に強制収容している状況について、日本を含めて一帯一路を支持する西側国家は言及しなかった。それどころかカザフスタンやキルギス、パキスタンといったイスラム国家は一帯一路の果実を得るために、中国のイスラム弾圧に目をつぶっている状況だ。

 一帯一路構想こそ、中国がことさらウイグル弾圧に力を入れる原因でもある。一帯一路を支持することは、世紀の民族弾圧に加担することではないか、という視点でこの問題を考えてみたい。

東トルキスタンの所在地( “新疆ウイグル自治区”)(出所:Wikipedia)

ウイグル問題から目をそらす中央アジアの国々

 今回のサミットには、カザフスタンのナザルバエフ前大統領、キルギス、パキスタン、アゼルバイジャン、タジキスタン、ウズベキスタン、エジプト、ジブチの大統領・首相ら、中央アジア、アラブのイスラム国家の首脳も大勢参加した。彼らが習近平と会談したとき、言及したという話は聞いていない。

 中国のウイグル人迫害について正面から言及してきたトルコのエルドアン大統領は、2年前の第1回フォーラムには参加していたが、今回は欠席した。トルコはウイグルと同じテュルク系民族国家であり、中国の“再教育施設”に収容所されている、トルコでも人気のウイグル民族音楽家・アブドゥレヒム・ヘイットの死亡説が流れたときには、中国のウイグル人強制収容問題を「大きな恥」と激しい言葉で批判した。だが、トルコを除いて同じイスラム教を信仰していながら、ほとんどのイスラム国家がウイグル問題に見ないふりをしている。それどころか一部では素晴らしい政策、と肯定する声もある。

たとえばパキスタン。中国からすでに190億ドルの投資を受け、エネルギー施設やインフラ建設を中心としたパキスタン経済回廊建設を進めるも、債務返済が事実上不可能となって借金漬けの中国植民地状況だ。チャイナマネーで整備されたグワダル港はすでに中国に43年間の租借権を担保にとられた。カーン首相は中国への経済依存から脱却することを期待されて選挙で選ばれたが、今のところそれはかなっていない。カーンは3月、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、ウイグル問題について問われ、「はっきりいって、あまりよく知らない」と、この問題に深入りすることを避けた。

 パキスタンにとって中国のウイグル弾圧問題が全く他人ごとかというと、そうではない。国境付近の町ではパキスタン商人がウイグル人女性を妻としていることも多いが、夫が不在の間にウイグル人妻が再教育施設に収容されて行方不明になるが事件が続出している。ウイグル妻たちが強制収容されたのは、パキスタン(テロリストが多いということでウイグル人渡航に規制をかけている26カ国の1つ)から電話などを受けていることなどが理由となっているので、本来ならパキスタン政府から、この不当拘束について抗議があってしかるべきではないだろうか。

 カザフスタンも同じである。今回のサミットで「中国・カザフスタンエネルギー生産・投資協力計画」に調印しカザフスタンの中国依存はますます高まっている。習近平とナザルバエフ前大統領は会談し、中国とカザフスタンの“厚い友好関係”を強調、ナザルバエフは習近平から友誼勲章までもらった。だが新疆地域で多くのカザフスタン人、カザフ人が再教育施設に収容されている事実を彼らも知らないわけがない。実際、カザフスタン国籍のオムル・ベカリが、トルファンの実家に里帰りしたとき、再教育施設に収容され8カ月間、手ひどい虐待を受けた後にようやく釈放された例などは国際社会も大きく報道している。同じようなカザフ人の告発は実名、匿名を含め多くのメディアに報じられている。

新疆で行われている「再教育」

 新疆ウイグル自治地区イリ・カザフ自治州に、カザフスタンと国境を接するコルガスという町がある(下の地図)。中国から中央アジアに抜ける「一帯一路」のモデル玄関であり、中国とヨーロッパを結ぶ定期貨物列車(中欧班列)1日6本が税関検査を受ける辺境貿易の町でもある。

印のついた場所が、新疆ウイグル自治地区の、カザフスタンと国境を接する町コルガス(Googleマップ)
拡大画像表示

物流交易がこれほど盛んになっているにもかかわらず、国境の内と外では、ムスリムの身の安全も自由度も違う。一歩、中国に入れば、ベールを被ることも髭を蓄えることも「過激化の疑いあり」と強制収容の理由になる。だから、この地域に住む多くの中国国籍を持つカザフ人はカザフスタンに移住したい、帰化したいと思っているが、法律にのっとってカザフスタン籍を取ったあと、中国国籍を放棄するためには再び中国に再入国して手続きしなければならない。このとき、中国で二重国籍だとして身柄を拘束され、再教育施設に収容される例もあるそうだ。

 こういった自国民の安全問題が起きているにもかかわらず、カザフスタンのアタムクロフ外相は3月訪中して王岐山・国家副主席や王毅外相と会談したとき、一帯一路政策を持ち上げるために、新疆の再教育施設政策を「テロリスト勢力と宗教の原理主義をなくすために国際社会への参考になる」と絶賛してみせた。カザフスタンメディアは報じていないが、ラジオフリーアジア(RFA)などは批判的に報じている。このときネット上では、イスラム国家に一帯一路の枠組みで援助をする際は、中国のウイグル「再教育」政策を認めるよう踏み絵をさせているのではないか? という嘲笑的なコメントが多く流れた。

中国に取り込まれる中東諸国

 サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2月に北京を訪問し習近平と会談したときも、「中国が権力をもって国家安全維持のためにテロリズムと宗教原理主義に対抗するやり方を、サウジアラビアは尊重し支持し、中国と協力を強化していきたい」と語っている。

 サルマンはこのとき一帯一路を共に建設していくことを支持し、サウジアラビアの経済改革計画「ビジョン2030」と「一帯一路戦略」をリンクさせて進め、両国の実務協力をさらに深化させることを打ち出した。中国はサウジアラビアにとって最大の貿易パートナーで、2018年は1日あたり160万ガロンの石油をサウジから購入している。最大の“お得意さま”中国の機嫌を取るためなら、中国の宗教弾圧を見て見ぬふりをするどころか、加担するぐらいのことはやれるということだろう。

 一帯一路サミット直前の4月17日には、上海で「第2回 中国・アラブ諸国改革発展フォーラム」が開催され、その場で、中国はアラブの17カ国と一帯一路協力文書に調印し、すでに12カ国と全面的戦略パートナーシップまたは戦略パートナーシップを樹立したことが明らかにされた。新華社によれば、フォーラムには中国とエジプト、レバノン、オマーンなど10カ国の政治、学術、ビジネス界の代表100人余りが出席し、一帯一路建設における相互発展繁栄について討論した。このフォーラムでは、「中国・アラブ園港互聯」(「互聯」は相互にリンクするという意味)構想が進展していることが紹介された。アブダビ、スエズ、ジーザーンなどで共同建設中の産業パークと近隣の港湾を連結させて、産業集積と波及力を高めるのが狙いという。特に中国・エジプトスエズ経済貿易協力区では3000人以上の地元で雇用を創出しており、構想圏全体の雇用創出はすでに3万人以上という。

 エジプトは中国にすり寄るあまり、2017年、自国内のウイグル人留学生を中国の要請に従って身柄拘束し、中国に強制送還させている。拘束者は少なくとも200人とも言われており、ヒューマンライツウォッチはじめ国際人権組織が批判の声を上げていた。

一帯一路戦略とウイグル弾圧の関係

 2014年以降、中国のウイグル弾圧が苛烈さを増しているのは、一帯一路戦略のスタートと深い関連性がある。習近平が一帯一路戦略を最初に提唱したのは2013年9月、カザフスタンの古代シルクロードのオアシス都市、アスタナでだ。中国、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンをつなぐ高速道路、鉄道と天然ガスパイプライン計画を包括した、中国による中央アジア支配をイメージしていたようだが、この計画を実施するには、新疆情勢の安定が鍵であることは当時から指摘されていた。

中国の6分の1という広大な新疆地域は、イスラム過激派テロ組織を国内に多く擁するパキスタン、アフガニスン、タジキスタン、キルギスタン、カザフスタンと国境を接する。一帯一路で交通インフラをつなげば、下手をすれば新疆地域にむしろ過激派を呼び込むことにもなりかねない。東トルキスタン独立派にはアフガニスタンのタリバン基地で軍事訓練を積んだ者も過去にいたという。

 逆に言えば、この地を中国として完璧にコントロールできれば、中国とアジア、ヨーロッパ、アフリカを中国主導で連携し、その沿線国における支配力と求心力を高めて中国を中心とする“運命共同体”を構築できる。それが習近平の掲げる「中華民族の偉大なる復興」という強大な地域覇権構想のモデルである。

 だが、その起点となる新疆地域はムスリム人口が50%を超える。ほとんどが素朴な市民、農民だが、その中には漢族支配強化に不服な東トルキスタン独立派が紛れ込んでいる可能性は確かにある。2014年の南ウルムチ駅爆破事件を自らに対する暗殺未遂と思い込んでいる習近平は、ウイグル人そのものへの不信感が強く、一旦疑い始めると、ありとあらゆるイスラム的習慣が過激化、テロリストのシグナルに見えてしまうようだ。そこで怪しいウイグル人全体を“再教育”し、漢族と同化させてしまうことが一番確かな治安維持法である、という判断を下した。しかし、これがテロや過激派の犯罪予防ではなく、宗教・民族の弾圧であり破壊であることは言うまでもない。

日本ならはっきり言えるはず

 さて、そういう一帯一路に日本は昨年秋以来、第三国市場における日中協力という形で参与している。北京の一帯一路国際協力フォーラムには安倍晋三首相の特使として二階俊博・自民党幹事長が参加した。習近平と会談し、安倍首相の親書を手渡したそうである。二階幹事長はその後の会見では「米国の機嫌をうかがいながら日中関係をやるわけではない」と語り、中国メディアも見出しに掲げて報じた。

 大国の思惑を忖度しない日本外交、確かに素晴らしい。ならば、中国の顔色こそ気にせず、「覇権の野望とコンプレックスのために、歴史ある民族の信仰と伝統を破壊することはおかしい」とはっきり言ってほしい。「運命共同体構築の理想を掲げるなら、他民族の思想と信仰と言論の自由を尊重せよ」と日本なら言えるだろう。中国に借金を背負っているわけでも弱みを握られているわけでもないなら。

 むしろ、それができない日本に、来たる新しい世界のフレームワークの中で、米中の顔色を窺わずに確固とした国際地位が築けるわけがないと思うのだが、どうだろう。